アベノミクス「三本の矢」とフィッシャーの貨幣数量説

2009年8月の衆院選で民主党が大勝して民主党内閣が発足したが、わずか3年3ヶ月で完全崩壊。2012年12月、自民党が復活し、安倍政権がスタートした。その経済政策が出揃ったのが2013年6月の「三本の矢」だ。①超金融緩和政策、②公共投資の建設国債を日銀買い入れするという財政政策、③「産業競争力会議」を設置しての成長戦略である。安倍内閣は7月の参院選でも圧勝してねじれ国会も解消、これからの政策遂行が期待されるというところだが、さてどうであろう。

 

「三本の矢」政策の本質

②の財政政策は、歳出削減による財政再建をやってくれるのかと思いきや、政府債務を上乗せするだけの公共投資とそのファイナンスを日銀に依存するという景気刺激だから、財政政策というより①の金融政策の一部と、私なぞは見てしまう。大事なことは超金融緩和が実体経済を刺激して経済成長に向かうかどうかが成否の分岐点で、わかりやすく言えば金融緩和と実体経済刺激の「二本の矢」政策といっても良かろう。

アベノミクスの経済政策の理論的根拠はマネタリズムと言われるが、その論理をわかりやすく表現すれば、金融緩和→貸出増→投資増→雇用回復→給与増→消費伸び→景気回復→増税可能→国債償還となる。金融の刺激が投資と雇用と消費の伸びとなって、実体経済の浮揚に結び付くか否かがポイントだ。15年以上のゼロ金利でも貸出が増えないというのが実態なのだが、さて、どうやって今回の金融緩和を貸出の増加に結びつけていくのだろう。

 

フィッシャーの貨幣数量説

アベノミクスの主柱である金融緩和政策を評価するわかりやすい公式がある。フィッシャーの貨幣数量説(1911年)。以下のような公式で、マネタリズムの理論的支柱である。

 

①貨幣供給量 ×②流通速度 =  ③物価  × ④実質国民所得

(マネーサプライ) (景気) (インフレ・デフレ)  (目的)

 

マネタリズムは、①マネーサプライ(M2+CD。簡単に言えば現金と預金)を増やすことによってデフレ脱却し、実質国民所得・GDPを増やそうとする。しかし、公式が示すように、マネーの増加があっても、②流通速度(これが景気そのもの)が落ちたら意味はないし、③物価、すなわち、国民が今回の金融政策をインフレになると評価したら、お金を実物資産に変える動きに出て、ハイパーインフレになる恐れもある。④マネーの増加がGDPの増加に結び付くのは金融政策に加えて実体経済が活性化するための大胆な諸政策が併行する場合のみなのだが、さて、そこがやれるか。

 

実体経済の回復策は?

繰り返すが、要点は実体経済に金が回り、景気が浮揚することである。こうならないと、超金融緩和は日本の天文学的な政府債務という文脈では、ハイパーインフレに転化する危険がある。アベノミクスはそんな危うさを秘めている。

そこで、どのような実体経済回復策があるかだが、内閣府のホームページに記載されている。「3つの成功への道筋」、「日本再興戦略の3つのアクションプラン」などがあり、恐らく100を超える具体的な項目があるのだろう。これらは言うまでもなく、各省庁の総花的政策メニューで、憎まれ口を叩かせてもらえば、行政主導で経済構造の改革ができるのなら、「失われた20年」はなかったろうし、デフレも続いていないだろう。問われているのは、戦略的な経済構造改革なのだが、その具体的な道筋はいまだ、出されてはいない。

私は、経済の基本は雇用と考えているが、疑問に思えてしょうがないのは、たとえば、20年以上続く海外投資の阻止策をどうして打ち出さないのだろうかということである。国内の雇用が失われる一方の企業の海外展開、特に3.11以降の貿易赤字下で、たとえば国内回帰企業には税務面で大幅優遇するなどの政策である。しかし、現実に政府がやっていることは企業の海外展開の情報支援などで、真逆である。実体経済を空洞化させ続けて、日本経済の再興などあるはずがない。