マインドフルネスと企業経営

「マインドフルネス」と「企業経営」

ん? なんでこの二つの言葉が同じ文の中にあるのだろう。みなさんは、そんな違和感を持たれるでしょうか?

 

「マインドフルネス」とは、禅などを連想させる何かスピリチャルでビジネスとはほど遠いところにある言葉。

一方で、「企業経営」とは、わたしたちのビジネスの日常にあるもの。戦略を立ててPDCAを回しながら収益をあげていくことであり、そこでは感情や意識に振り回されてはいけない。そんな風に感じる方がほとんどでしょう。

 

しかし、今やNHKの教育テレビさえもマインドフルネスの教養講座を放映する時代、「マインドフルネス」と「企業経営」という二つの要素が統合された東洋思想での経営スタイルが、これからビジネスの常識となる時代がもうすぐそこまできています。

一方で東洋思想の本家であるはずの日本では、KPI管理をベースとしたヒエラルキーによる経営管理スタイルが主流です。この状態を評して東洋思想の経営スタイルの導入が進展している欧米から2周回ぐらい遅れていると指摘する方もいっしゃいます(後述の大室さん)

Googleやインテルなどは、イノベーションを生み出す経営のメソッドとして、マインドフルネスを企業経営に導入していることが知られています。また、共感や内省の思考を取り入れた「デザイン思考」という手法は、デンマークなどでは働き方の基準として法制化までされています。

日本のビジネスの領域においても「マインドフルネス」という言葉を聞くことは少しづつではありますが増えてきているようです。企業向けにマインドフルネス講座を実施している友人に聞くと、最近では大企業からもマインドフルネスをテーマとしたセミナーの相談が増えてきているそうです。そのなかには銀行のような意外ところからの相談もあると聞きます。

 

そんななか思い立って、714日に、東京日本橋のスルガ銀行ANA支店Financial Centerで「マインドフルネスと企業経営」という対話イベントを実施しました。マインドフルネスを企業経営や地方創生の現場で実践している、二人の先人の方とたまたま親交があったのです。その二人の対話を皆さんとともに味わいつつ、複雑化する時代の今の日本のビジネスの立ち位置を確認したいという意図でした。

 

お一人は大室悦賀さん、京都産業大学経営学部教授で、ソーシャルイノベーションの旗手として京都や長野などで、社会課題とビジネスを融合する活動をしていらっしゃいます。大室さんは、二項対立ではない「あいまいさ」のなかにこそ、社会課題の解決とビジネスの統合を実現させるチャンスがある。これを実践するためには、PDCAKPIで測られるようなこれまで慣れ親しんだ過去の分析手法は役に立たないと説きます。経営者にとって大切なことはピュアであり、多様であるということ、つまりいかに悟りに近い状態、つまり「マインドフルネス」な状態であることが大切である、そして、組織もTEAL型と呼ばれる生命体のような非同期型への形態と進化していくべきだということをお話いただきました。

 

もう一人は、三木康司さん、株式会社enmono 代表で「 禅イノベーター」を名乗り、中小企業ものづくりの現場で禅のスタイルを取り入れた「マイクロモノづくり」の実践を行なっている方です。三木さんは、中小企業の経営者に対して人のマネをする正味期限の短い「Me-Tooイノベーション」と、「なぜそれがやりたいのか」という意識を突き詰めた「内的イノベーション」を区別したうえで、後者での禅の手法を取り入れたモノづくりを実践してきた事例のお話をしていただきました。そして、気づきの共感を作り出す活動を「幸せの根回し」とよび、三木さん自身もその実践として鎌倉から世界に禅を発信する国際カンファレンス「Zen2.0」の活動をしています。

 

セミナー終了後に参加者からもらったコメントをいくつか紹介いたします。

「ビジネスは総合格闘技であり、勝ち残るにはPDCAを如何に高速で回し、KPIを如何に上げていくかという企業生活を送っている人には、驚愕でした。」

「考えるのではなく感じることをもっと大切にすべきということでした。論理思考と直感のバランスをとっていきたいと思いました!」

「働くことは何かということについて改めて考えさせられることになり、悶々としている」

 

これらコメントが示すように企業経営はいつしか、人間の意識と分断させ、それ自体を自己組織化した世界を作ってしまったようです。そして、我々の多くは「働く(Work)」ということと「生きる(Life)」ということを分断して考えるようになってしまった。それぞれが分断している前提で、両者の調和を取ろうとする「ワークライフバランス」という言葉が用いられていることもこれを象徴しています。

 

「働く」ということは突き詰めて考えれば、会社などの組織で作業をすることだけではなく、それらを含めて仕事を通して「授かった命を全うすること」ということでしかありません。そして、それは「自分らしい人生を生きる」ことそのものです。つまり「ワーク」と「ライフ」とは本来、統合されているものなのです。

 

同様に「マインドフルネス」とは、「今、ここにある意識に向き合うこと」であり、「企業経営」とは、そこからたち現れる自分の意図(これを「経営理念」という)を現実にしていくプロセスのことです。

つまり「マインドフルネス」と「企業経営」という言葉も本来統合されているものなのだろうと思います。