2026年からのメッセージ~「地域金融みらい会議2016」開催報告

2016年に生きている銀行のみなさん、お元気ですか?
私はみなさんからちょうど10年後の世界、2026年の銀行で働いているものです。

2016年といえば、確かあのドナルド・トランプが大統領に選出された年ですよね。彼は就任後もいろいろと物議を醸しましたが、今では、歴史上もっとも人としての変容を成し遂げた米国大統領として語りつがれています。

 

2016年はまさに金融激変の真っ只中でしたね。2026年の金融の世界は、すっかりと様変わりしてしまいました。たった10年しか経っていないのですが、みなさんの時代が随分昔のように感じます。
振り返ってみれば、みなさんの時代、森信親さんという方が金融庁の長官となられて、金融行政の転換が急激に加速しはじめた頃でした。今となってはあのときの改革路線が大きな歴史上の転換点であったと、評論家たちが評価・検証をし始めています。当時、金融庁は共通価値という概念を初めて金融業界に持ち込みました。今では銀行のみならず、多くの企業において持続的な経営のあり方として、社会的役割を果たす行動が企業経営の常識として語られるようになりました。最も地域の社会課題と密接に関わる地域金融の領域において共通価値の議論が始まったことは、他の業界や行政全体に対しても大きな影響をもたらしました。

 

この10年間でいくつも地域金融機関の再編が進みました。「まさか、あそことあそこが」という銀行同士の経営統合や合併もいくつか発生しました。今では銀行名として適当な、「ひらがな3〜4文字」の綺麗な日本語がもう探せないほどになっています。
なかには、上場を廃止して独自路線を突き進もうとする銀行も現れてきました。ビジネスモデルの転換をはかるときに、短期的な収益をいったん犠牲にせざるをえないという戦略のなかで選択をしたのでしょう。また、ECサービスやIT企業などの他業界からの銀行業への参入が加速され、それまでの銀行の中からも持ち株会社の配下で独自のサービスを展開する銀行を新たに設立する動きも見られました。
ここ数年で登場したファイナンスにはユニークなものがいろいろあります。農業センサーを用いて、農作物の生育状況をモニタリングしながら融資をするサービスや、再生エネルギー投融資に特化するなど社会的課題の解決を理念とする銀行が現れたりもしています。本当に金融サービスは随分と多様になったものです。

 

私には10年前を振り返ったときに、忘れられない出来事がありました。2016年11月18日に、東京の大手町で行われた「地域金融みらい会議」というイベントに参加したのです。その当時の金融の事業環境は、利ざやの縮小や、マイナス金利などの影響で本業部分の先行きが見えないほど真っ暗闇な時代でした。当時銀行の企画担当であった私は、何かビジネスモデルの転換のヒントかないかと、すがる思いで足を運んだ記憶があります。そのイベントでは、銀行の代表や金融庁の方、業界のオピニオンリーダーと呼ばれる人たちが大勢集い、グループに分かれて直接対話をするというという当時としては珍しい建て付けのイベントでした。私も、輪に入ってその対話に加わりました。その中で、変わりたい、変えられない、誰が悪い、自分が悪いというような、それこそ結論の出ない対話がずっと繰り広げられました。金融業界以外からの参加者からは、銀行の存在価値さえも突きつけられるような、問いかけもなされました。それは、そうでしょう、当時の私たちは金融庁などが示す「やりかた」をなぞる仕事に慣れきっていて、自分たち銀行の存在価値や「ありかた」について考えたことなどなかったからです。

終わった時には、「この会議は一体なんだったんだろう?」もんもんとした気持ちになったことを覚えています。このイベントで思考の矢印がそれまでの外に向かってではなく、自分自身に内側に向かわざるを得ないという課題を突きつけられたからです。
しかし、帰り道、大手町の日本の金融の中心街を歩いている最中に、突然、ハッと気がついたのです。
「あのなかには、日本を代表する金融業界のリーダーたちがきていたはず、いわば、日本の金融の縮図のようなもの。その中で変革と創造の対話ができなかったとすれば、日本の金融の変革など起きようがない!
なぜここに女性のバンカーが一人もいないんだろう、なぜ意見の違う人たちが自分の立場から離れようとしないのだろう、なぜ、自分さえも同じように固定概念に固執していたのだろう。
そういうことか、自分がこの日に感じていたバカバカしいと感じたことから変えていけばいいんだ、そこから始めればいい。まずは、自分から始めていくしかないということなのだ。」

そう思うと、むしろ急に霧が晴れてきた気分になりました。被害者になって、愚痴や皮肉をどれだけならびたてたとしても、金融業界の変革には1ミリも近づくことは出来ないということ、そして、自分の役割とはその1ミリを進めることでしかないということ
もしかして、あのイベントは、私にそれを気づかせようとするものだったのかもしれない、だとしたらなんてまわりくどい!

 

その後私は小さな領域からでしたが、勤めていた銀行の改革にリーダーとして取り組むようになりました。女性の登用を積極的に進め、本部がコントロールする管理志向の業務を抜本的に改め、支店が自立的に運営できる業務設計を推し進めました。抵抗勢力がたくさんいて折れそうになったことは、何度もありましたがあの時の気づきが自分を支えてくれていました。

 

今は私が勤めている銀行の名前が変わってしまいましたが、これもその後のエキサイティングなプロセスがもたらした私たちの生まれ変わりでもあります。

2016年に生きる皆さんのその後の変革の努力によって、今日銀行は社会的役割を果たす存在として、2026年の今も存在して仕事を続けることができています。それは、皆さんたちのリーダーシップがあったからこそなのです。改めて皆さんには、心からの感謝を申し上げます。

 

2026年11月 しなやか銀行 頭取 ○○○○

 



 

2016年11月18日、気持ちのよい秋晴れの日でした。東京駅に程近い大手町の「東京金融ビレッジ」において、ISIDが主催する

「Round Table 地域金融みらい会議2016~10年後への分水嶺『大切にしたい銀行』と『捨てられる銀行』」というイベントが行われました。

 

上記のメッセージは、この会議に参加していたとある銀行員の10年後をイメージして創作したものです。未来のことですからもちろんフィクションですが、この登場人物がイベントの参加後に感じたことは実際に参加した方からヒアリングした事実でもあります。

 

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イベントのパンフレット

 

この会議でテーマとしたこと、それは今の多く誰もが気がつい気がついていること「今のままの地域金融のビジネスモデルは、いずれ縮小していくであろう」という現実に真剣に向き合い、現場のリーダーである参加者が、いまここで、もつべき意図、そして行うべき選択とはどんなものかということについて対話を行うというものでした。

当日は、金融機関の役員、金融庁、金融界のオピニオンリーダーなど、現在の地域金融業界の中核にいる70余名の方々が全国から会場に集いました。そして、このテーマについて全員が参加し4時間以上にわたる対話をくりひろげました。会では参加者全員に対して「肩書きや立場を横におき、心を開いた安心・安全な対話をする」という約束をしているので、残念ながら当日にかわされた、きわどい話をここで紹介することはできません。

 

70余名の方々が全国から会場に集い対話を繰り広げた

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和波 里翠さんによって対話の内容をリアルタイムで描くグラフィックレコーディングが行われた

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今日の金融業界がそうであるように、複雑で予測不可能な状態であるときほど、変化に対する強い抵抗と、思考や立場の分断が発生します。それを反映するかのように、森長官が推し進める金融行政方針の転換に対しても、不安や恐怖、楽観や達観、批判や排除などの意見に多くのバンカーが翻弄されているようです。今、ここ、このようなときほど多様なステークホルダーが集い、「それぞれの存在を承認しあえる対話」によってしか問題は解決されず、そして、新しい未来も創出されないと信じています。ですから、我々はこのような場創りを業界の内外(うちそと)、年齢、性別、専門家であるなしを問わずに続けていきたいと考えています。

 

みなさんは、誰にどんな幸せを届ける存在として10年後の社会に受け容れられていたいですか?

私たちとともに「対話」をはじめてみませんか?